2007年03月23日 00:51

ジャンル: [ビジネスハウツー

高橋淳二

M&A時代 企業価値のホントの考え方

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出版社:ダイヤモンド社

定価:1,600円+税

発行日:2007年3月

株主も、自分たちが保有する株の価値を高めて欲しいわけですから、経営者や従業員には頑張って欲しいし、会社に対して人事面や待遇面で社員が成長できる制度を持っていて欲しいと考えるのが通常です。 したがって、「会社は株主のものである」と「会社は株主・取引先・経営者・従業員・地域住民等を含むステークホルダーのものである」とは何ら矛盾してはいないのです。

(P.28より引用)

ワクワク経済研究所LLP(http://wkwk.tv/chou)代表・保田隆明氏と、株式会社インテグリティ・パートナーズ(http://d.hatena.ne.jp/ilovefirenze)代表・田中慎一氏の共著。タイトルの“ホント”や副題の“お作法”が示すように、企業価値、MBO、敵対的買収、三角合併など、今話題ではあるけれどもその内容がよく理解できていないM&A時代のキーワードをわかりやすく解説した1冊です。

では、なぜ1972年生まれの田中氏と1974年生まれの保田氏が、この本を出したいと思ったのか。共著者の代表として保田氏がプロローグの冒頭から問いかけをしてきます。「皆さんは、自分の目の前で日本企業がバタバタと米国企業になぎ倒されていく姿を見たことがあるでしょうか?」と。多感な学生時代を「ジャパン・アズ・ナンバーワン」のバブル期に過ごした団塊ジュニアの世代が、バラ色だと信じ疑わなかった将来。だが、待っていたのは就職氷河期であった、と。明らかに機能不全に陥っていた日本。その立て直しに必要な“大手術”の方法として彼らはM&Aというものに出会った、と述べています。

そういう企業の存在価値、つまり企業がいったいどれぐらいの富をもたらすのか、を数値化したものが企業価値です。通常、企業は長年にわたって存続していきますので、来年生み出す富、再来年生み出す富、そしてその後も全部含めてその企業がもたらす富を予測して数値化するという作業が必要になります。  逆に、たとえ過去に莫大な富を創出していたとしても、今後富をもたらす可能性がゼロであれば、企業としての価値がないことになります。それは、賞味期限が切れた食品にたとえるとイメージしやすいかもしれませんし、カネボウ、ダイエーもかつては多額の富をもたらしていた時代もあったことを考えると納得いただけると思います。

(P.40より引用)

同じ外資系投資銀行に転職し2人は出会うわけですが、日本企業でも現場の若手ビジネスマンの中には、M&Aや財務戦略を有効活用して企業価値を意識した経営をすべきだという考えを持っていたそうです。ところがいざ、経営者・取締役のレベルになると、その観点で考える習慣がなく、後ろ向きな意見も少なくなかった。そのことにむなしさを感じた2人は「むしろ若い世代のベンチャー企業の方々にM&Aや企業財務戦略の知識を持っていただき、彼らが縦横無尽に活躍する5年後10年後にビジネスという戦場で世界的にも負けない企業を作ってもらうほうがいいかもしれない」と考え、2名とも2004年3月に辞表を出し、現在の「外部視点」での活動に至ったそうです。

M&Aもコーポレートファイナンスも非常に論理的であり、これほどわかりやすい分野も少ないのではないか、なのに実際にはむやみに感情論が飛びかっている、と著者は述べます。M&Aやコーポレートファイナンスに対して、正しい理解と前向きに活用したいという機運が高まってきた今、理解を補完・促進する本を出したことをうれしく思う、とも述べています。

では、実際、企業価値は何で計ればいいのでしょうか? それは企業の稼ぐ力、キャッシュフローということになります。ただ、キャッシュフローという言葉にはアレルギー反応を起こす方もいらっしゃるので、企業価値とは本業によってもたらされる稼ぐ力を数値化したもの、とご理解ください。「稼ぐ」をもっと身近な言葉に置き換えると、お金を生み出す力ということになります。売上があっても、取引先への仕入れ代金の支払いや従業員への給与支払いなど、必要な支払いをすると手元に残るお金はゼロという状態の企業は、社会的にみると、売上高という形のお金を取引先、従業員などに移動しているだけであり、お金を生み出しているわけではありません。  そのような企業の企業価値はゼロです。

(P.44より引用)

先日、この本の出版セミナーに出席し、お2人の話を聞かせていただきました。この本は株式市場と向き合う上場企業の経営者あるいは経営に携わる方々のために書かれたものであり、難度としては中級者向けのものであるとおっしゃっていました。けれども非常にわかりやすい例えと平易な文体で説明がされているため、専門知識を持たない私にもよく理解できる内容となっていました。

たとえば、「戦後50年続いた間接金融体制が崩壊し、経営者が直接株式市場と向き合わなければならなくなったのは、実は、ここ10年ほどの最近の出来事なのです。筆者は、多くの経営者が株主資本主義に抵抗を感じる最大の原因はここにあると思っています。」(P.23)という説明や、「実は、世の中で『敵対的買収』と呼ばれる案件はすべて買収提案を受けた会社の経営陣が、いわば独自に(勝手に)そう呼んでいるだけであり、その会社の株主によって良いか悪いかといった肝心な点は無視されてきたと言っても過言ではありません。」(P.162)といった説明は、現在のM&Aに関するさまざまな「なぜ?」を解き明かしてくれていると感じました。

セミナーでお会いした著者2名は、非常にしなやかで口調も柔らかく、好感の持てる方々でした。と、同時に言葉の端々から「このままではいけない」という強い思いが2人を突き動かしていることも痛切に感じ取れました。保田氏は出版セミナーの中で「バブルという時代で日本を壊した人たちへの恨み」という表現をしていました(後にあいさつに行って話した時には「あれはちょっと大げさな表現をしてみただけです」と笑っていました)が、良い時代を築き、残すために「まず知る」「そして動く」ということの大切さを再認識させてくれる1冊です。著者と同じ30代の人間の1人として、同世代の方々にぜひ読んでもらいたいと思っています。

あとがき

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映画『パフューム』、とても良かったです。映画にしかできないことが詰まっている良作。機会があればぜひ!

Comments

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この記事へのコメント一覧です:

冒頭の引用箇所、これで全てが言い尽くされてますよね。

(´ー`)y-~~ (2007年03月23日 03:19)

>Σ(゚д゚lll)y-~~さん、いつもありがとうございます。たしかに!

高橋 (2007年03月23日 12:15)

『Σ(゚д゚lll)y-~~』は私好みではありません。

(`Д´)ゞ ビシッ!

(´ー`)y-~~ (2007年03月23日 21:09)

企業規模の大小を問わず、まだまだ日本企業にはM&Aや財務戦略といった言葉や実際の行動に抵抗する風潮が残っている気がしています。著者たちのような気概を持った若者が、これからの日本を背負う若手経営者達に財務手法を指南するというチャレンジに共感を覚えます。考えている・思っているだけでは何も動かないと思います。実際の具体的な行動を起こすきっかけになりそうな一冊ですね。

hedge (2007年07月20日 23:58)

hedgeさん、コメントありがとうございます! 著者のお二人は非常にしなやかな感性の持ち主で、人を集めてつなげて、大きなパワーに変えていく行動力や魅力を持っているように感じました。「しなやかである」ということが、今後のキーワードのような気がしています。

高橋淳二 (2007年07月22日 15:38)

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sandy (2010年05月30日 01:56)

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Avvpklow (2010年06月04日 20:01)

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